レアル・マドリードのサポーターは世界でもトップクラスに選手に厳しい場所と言われている。
これまでチームを救ってきたレジェンドであってもプレー内容によっては街を普通に歩けないほど批判を受けることも少なくない。
裏を返せば、それくらいサポーターはチームをどうすればもっと良くなるかについて考えているということだが、ここ最近サポーター間でも常に議論されているトピックがある。
それがレアル・マドリードの右サイドバック問題。
これまで不動の右サイドバックとして君臨していたダニ・カルバハルが負傷離脱した事により、右サイドバック問題が浮上。
本来であれば右サイドバックを本職とするオドリオソラがスタメンに名を連ねるのが普通だが、ジダンはウイングが本職のルーカス・バスケスを起用。
この起用法をめぐってサポーターの間ではバスケス擁護派とオドリオソラ擁護派のニ派に分かれている。
ってことで今回はジダンはなぜ右サイドバックにオドリオソラではなくルーカス・バスケスを起用するのか?について書いていきたいと思う。
ジダンに重宝されるルーカス・バスケス
2020-21シーズンのレアル・マドリードには深刻な問題が発生している。
それが怪我人の多さだ。
つい先日行われたレバンテ戦にはトップチームに所属している選手がたったの16人しか招集できなかった。
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キャプテンのセルヒオ・ラモス、中盤で精力的なプレーで重要なピースとなっていたフェデリコ・バルベルデ、そして期待の若きアタッカーでもあるロドリゴ・ゴエスも長期離脱中だ。
そんな中、これまでレアル・マドリードの右サイドバックを不動の地位としていたダニ・カルバハルも負傷離脱からなかなか復帰できていない。
カルバハルは2020年10月初旬に行われたトレーニングで右膝の内側側副靱帯を負傷。
約1ヶ月半の離脱を強いられ、11月の代表ウィーク明けに復帰を果たしたものの、11月後半には再び右足の内転筋を負傷し離脱した。
これまでは怪我が少ない選手だっただけにここにきて過密日程の影響が出たとも言われていた。
そこでチャンスが巡ってきたのは右サイドバックで控えに回っていたアルバロ・オドリオソラなのだが、オドリオソラもカルバハルが膝の靭帯を負傷した同じ日に左ふくらはぎの筋肉を損傷。
ここまで出番が少なかっただけに本当についてない選手だなと思った。
2人の負傷離脱により右サイドバックを本職とするプレイヤーがいなくなってしまったことで、左サイドバックを本職とするメンディや守備のユーティリティさが売りのナチョが起用されるだろうと考えられていた。
しかしジダンが決断したのはウイングを本職とするルーカス・バスケスの起用。
そして、それ以降オドリオソラの復帰が発表されてもジダンは本職の選手をベンチに置いて右サイドバックとしてバスケスをフル出場させる試合も多くなった。
この起用法はサポーターの賛否両論を生む事になった。
2020-21シーズン(第21節時点)でルーカス・バスケスが試合に出た数は16試合。
うち右サイドバックでスタメン出場した試合は6試合にもなる。
右SBでの途中出場も含めたらそれ以上だし、カップ戦やCLも含めたらもっとだ。
シンプルに右サイドバックを務めることができる選手たちに怪我が多いということはあるが、ウイングで攻撃が売りの選手が右サイドバックで出場する試合数としては異例だ。
また、コパ・デル・レイなどのカップ戦で主力メンバーを温存させたレアル・マドリード。
カップ戦には流石にオドリオソラがスタメン入るかと思われたが、その試合でもルーカス・バスケスは当たり前のようにスタメンに顔を並べていた。
前所属のレアル・ソシエダでは不動のレギュラーとして活躍していたオドリオソラの自信を失わせかねないこの起用法にツイッターや海外版2チャンネルRedditなどでは不満が噴出した。
それでもジダンはルーカス・バスケスを起用し続け厚い信頼を置いていることは一目瞭然だ。
バスケスよりオドリオソラが起用される理由
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実は2015年に当時指揮を執っていたラファエル・ベニテスが初めてルーカス・バスケスを右サイドバックとして起用した。
そして、2回のジダン政権の間に就任したロペテギもバスケスを右サイドバックで起用したことがある。
しかし、ジダンの起用の仕方を見ていると、右サイドバックでプレーした経験があるからって理由だけではないように思えた。
個人的にもなぜ右サイドバックが本職で結果を残してレアルにやってきたオドリオソラをジダンが軽視しているのか、すごく疑問に思っていた。
それを真剣に思ったのは、直近のスーペルコパ準決勝のA・ビルバオ戦で戦犯となったバスケスのプレー。
「守備が本職のオドリオソラをなぜ起用しない!?」
と真剣に理由を考えたが、どう考えてもオドリオソラを1番手にしない理由が見つからなかった。
ジダンが単純にバスケスの方が好き、とか、バスケスの方がレアル歴が長い、くらいしか本当に浮かばなかった。
でも、オドリオソラがジダンから信頼されていないということは明らかだと思う。
でなきゃFWの選手をわざわざDFで使わないだろう。
しかしそれはなぜなのか。
これまで、オドリオソラが出る時には必ずバスケスがいた。
オドリオソラが先発で出場した時も右サイドでペアを組んだのは本職のウイングで起用されたバスケス。
途中出場でオドリオソラが出てもサイドバックを務めていたバスケスをウイングにポジションを上げてオドリオソラを起用。
しかし、バスケスが不在となった20-21シーズンのラ・リーガ21節レバンテ戦でジダンがバスケスを起用する理由が分かった。
おそらく以下の理由でジダンはオドリオソラではなくバスケスを起用しているのだろう。
- プレスのかわし方(逃げ方)
- フィジカル面(体の使い方)
- ポジションチェンジが可能
1つずつ簡単に解説していく。
プレスのかわし方(逃げ方)
オドリオソラは豊富な運動量と正確なクロスでチャンスを演出する典型的なサイドバックの選手。
前に広大なスペースがある時に持ち味を発揮することができる選手だ。
しかし、決して足元の技術レベルが高いとは言えないのが正直なところだ。
それはボールを全く扱えないということではなく、サイドバックとしてボールを逃すのがあまり上手くない。
というのは、サイドバックというのはピッチの端っこでプレーすることが多い為(ラインに背を向けることが多い)、サイドバックにボールが入るタイミングは相手がボールを奪取しようとプレスをかけるタイミングとして最適だ。
つまり、サイドバックは相手がプレスにきているという中で最適な選択をして相手の守備に「はまらない」ようにする必要がある。
レアルの不動の右サイドバックであるカルバハルやルーカス・バスケスは、その相手のプレスを交わすのが非常にうまい。
しかし、オドリオソラは最適な判断を選択してプレスをかわす・ボールを逃すという点では2人に劣っているのだ。
20-21シーズンラ・リーガ第21節レバンテ戦ではそれが顕著に現れたシーンがあった。
後半に入った51~52分のプレー。
相手がカウンターを仕掛けようとロングボールを蹴るがヴァランが上手く対応してことなきを得た。
その後裏に抜けようとした相手FWのプレスを受けながらクルトワやボランチのクロースやカゼミロを介しながら後ろで繋ぎプレスを交わしていた。
そこでサイドに張っていたオドリオソラにパスが出たのだが、それを見るとハイプレスをかけていたレバンテの選手たちは、サイドラインで追い込もうとギアをもう一つあげてプレスをかけた。
状況的にはレアル3人vsレバンテ2人という状況。
三角形をうまく作りヴァランが相手2人の間で顔を出して待っていたのだが、オドリオソラが選択したのは相手が走る進行方向にいるカゼミロ。
クリアしようとしたボールは相手に当たってことなきを得たが、結果だけ見れば見事に相手にはめられてしまった。
変にボールを取られるというようなことはないが、味方に苦しいプレー選択をさせてしまうというのがオドリオソラの印象だ。
つまりボールを受けた時の選択肢の少なさがオドリオソラとバスケスとの差ということ。
ボールをかっさらわれたら一気にピンチになるポジションなだけに、監督としてはプレスを上手くかわせるサイドバックを使うというのは普通の思考なのかもしれない。
フィジカル面(体の使い方)
そしてルーカス・バスケスはオドリオソラに比べてフィジカル面でも優っている部分がある。
それが体の使い方だ。
ルーカス・バスケスは選手の中では小柄な体型の方になるので、フィジカル面が課題と言われている。
しかし、実際には当たり負けをするようなシーンはあまり見られない。
バスケスは小柄ながら体の使い方が非常にうまい選手で相手を背負った状態で受けてもロストするようなシーンは滅多にない。
もしくはしっかりとファールをもらってプレーを止めることができる。
これがバスケスの良さでもある。
しかしオドリオソラに関しては相手が近くにいるシーンでは味方からもパスが出てこない印象があるほどフィジカル面で不安を残す。
もちろんオドリオソラも守備の面でガツン!と行ってくれるシーンはあるが、バスケスやカルバハルと比べればやはりフィジカルは弱いと言える。
レバンテ戦でもそのシーンは表れていて73分と74分に2回コーナーキックがあったのだが、2回ともオドリオソラが潰されてチャンスが終わっている。(動画8分13秒〜8分30秒)
1回目はショートコーナーでクロース→モドリッチと繋いで、ボックス外でフリーになっていたオドリオソラへ。
トラップで相手を抜こうとしたのかトラップミスしたのかは分からないが相手に簡単に弾き飛ばされてしまう。
相手は「そんな簡単に倒れるな!」のジェスチャー。
しかも相手は来ていなかったのでドリブルで深くえぐる必要は正直なかった。
ここも選択肢の少なさを露呈したシーンだった。
攻撃の選手バスケスであれば、ボックス付近で受けた場合の選択肢は色々と持っていたと思う。
むしろシュートで終わっていたかもしれない。
中途半端に取られてカウンターなんて事になったら笑えないのでシュートで終われる可能性の高いバスケスの方が良い。
そして2回目は、ごちゃごちゃしたエリア内ではあったがこちらもエリア内でトラップした瞬間に相手に潰されてしまった。
カウンターのピンチだったがメンディがファールで止めたことで事なきを得た。
このシーンもバスケスであればうまく体を使ってキープしただろう。
バスケスやカルバハルだったらそのポジションを取ってたか、などは1回無視しても流石に一人だけフィジカルの弱さが目立った。
むしろコーナーキックなどのセットプレーになった時に、ゴール前で力を発揮できるのはオドリオソラよりバスケスというのは揺るぎない事実ではある。
監督からしたらゴール前で少しでも脅威になれる選手を起用したくなるのは当たり前だろう。
ポジションチェンジが可能
そして最後にルーカス・バスケスはポジションチェンジが可能であるということ。
これには2つの意味がある。
1つは、これはもう先ほどから言っているがバスケスの本職はウイングの選手。
その為、サイドバックからウイング、ウイングからサイドバック、などバスケスを動かす事によって交代枠をうまく使ってスムーズに選手交代できるケースが多い。
これはオドリオソラにはないユーティリティプレーヤーの特権とも言える。
そして2つ目は、バスケスのポジショニングセンスという意味でのポジションチェンジだ。
レアル・マドリードのフォーメーションは基本的に4-3-3で、攻撃時はサイドバックがかなり高い位置を取り2-5-3の形にシステム変更。
クロースやモドリッチがサイドバックに降りる形で後ろからポゼッションしていく。
その為、サイドバックは基本的にはモドリッチやクロースより高い位置でポジションを取ることが多いのだが、インサイドハーフが下がってボールをボールをもらうとなると中央のスペースが間延びしてしまう。
バスケスはそのハーフスペースにしっかりと入ってボールを受けることができる。
これがバスケスの強みでもありオドリオソラとの違いだ。
偽サイドバックなんて戦術があるがバスケスは中央に寄ってボールを受けることができるので相手にプレスをかけるタイミングを絞らせない。
つまり、選択肢が広がりポゼッションをスムーズに行うことができる。
一方オドリオソラはどうかというと、基本的にはサイドラインに張り付いている。
その為中央に空いたスペースには、本来ゴールゲッターであるベンゼマやアセンシオなどがボールを受けにくる事になる。
それではゴールまでの距離が遠すぎる。
相手がブロックを敷いているとしたら尚更簡単に守ることができてしまうだろう。
ルーカス・バスケスはポジショニング能力やスペース認知に関して素晴らしいものを持っている。
これはウイングの経験がかなり活きているんだとは思うが、インサイドハーフの位置やウイングなどとポジションを頻繁に入れ替わりながらプレーすることができる選手は貴重。
レバンテ戦などの試合を見ていて思ったこととしてはオドリオソラはオフ・ザ・ボール時の動きがかなり単調な印象。
監督からしたら、バランスを見てチームを円滑に動かしてくれる選手を使うのは正しい判断だろう。
ルーカス・バスケスは優秀な選手
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ここまでジダンはなぜ右サイドバックにオドリオソラではなくルーカス・バスケスを起用するのか?について書いてきた。
オドリオソラは決して悪い選手ではない。
オドリオソラのクロスだったり推進力は本当に素晴らしいものがある。
しかし、ルーカスバスケスが右サイドバックで起用される理由はここまで書いてきた通りだ。
- プレスのかわし方がうまい(ボールの逃し方がうまい)
- ボールを持った時の選択肢の多さ
- 体の使い方が上手い
- ゴール前での選択肢の多さ
- ポジションを変えながらプレー可能
- 交代枠を無駄に使わずに済む
ルーカス・バスケスはウイングで出場している時も相手のサイドバックを封じる為に90分上下動を繰り返し攻守に貢献するタイプ。
ここ最近はウイングで出場したときになかなか得点やアシストで貢献できていなかったが、それであれば得点力のあるアセンシオやロドリゴなどを起用したいというのも監督しては普通の考え。
だからこそ12番(バックアッパー)的な役割で途中出場も多かった。
ジダンも本当はクリロナとセルヒオ・ラモスが合体したような、得点力があって守備も頑張ってくれる選手が欲しいはず。
しかし、レアル・マドリードには攻撃陣でバスケスほど守備をしてくれる選手はいない。
バスケスは決して守備力が高い選手とはいえないが、難しいことをせずセオリー通りにプレーを遂行させることができる。
むしろ守備力だけでいえばオドリオソラの方が上なのかもしれない。(同じくらいって言ったら怒られるかな?って思って。)
その為、試合を終わらせたいタイミングでクローザーとして投入されたりする。
得点をとってこい!って指示よりも、「攻守でスペースを見つけてうまくバランスをとってくれ、守備の時はサイドバックの自由を封じてね!」って指示だと思う。
それをなんなく遂行する事ができるのはバスケスの強みでもありジダンにとっての彼の魅力。
なのでバスケスの存在はジダンにとって大事なのだ。
そして右サイドバックに負傷者が続出してオドリオソラと比較した時に、攻撃に厚みが出ることやプレーの選択肢が多いこと、そしてフィジカル的なことも考えてバスケスを起用しているのだろう。
カルバハルが帰ってくればカルバハルがレギュラーで出場する事にはなるだろう。
しかし、サイドバックでプレーできる事を証明したバスケスはこれからもジダン政権の中で重要な選手となることは間違いない。
Hala Madrid!